仕事で訪れた父と、品川で待ち合わせした。
今年の初めの冬、病気で倒れた父が、
人ごみの中で一生懸命、僕を探しているところを見た。

青信号に変わって、真っ先に走って、父に声をかけた。
「ロビーにいてって、言ったやんか」
「いや、おまえがわからんかもって思って」
ネクタイをほどいてあげて、父のポケットにしまった。

久しぶりにとったふたりでの食事の時間に、父が言った。
「俺はいつまでも待ってる。たとえ俺が死んでも、おまえは生きとるんやけん。
おまえはおまえの好きにやればいい。好きにやれるまで、自由にやれるまで、いつまでも待ってる。」

もう、飲めないお酒を少し飲んだ父と手を組んで、ホテルの部屋まで送って、
お茶のペットボトルを2本、ベッドに置いて家に帰った。父ちゃん、お茶をつぐコップわかるかな。

帰りのタクシーの中で、少し心配になった。
けれど父は、きっと自分の飲み方でお茶を飲むのだろう。
僕が知らない景色を、父は知っているのだろうな。
次の日、飛行機が無事に着いたと父が電話をくれた。

どんなに形が変わっても、父は自由だった。
父は最後まで、自分の体より、僕のことを心配してくれていた。
そして、いっぱいいっぱい、笑ってた。
あの時、いっぱいいっぱい、笑ってた。

自由とは

キャンバスにまみれて、時間に追われて、様々な場所に行って、
手帳と携帯ばかり気にして、鏡を見ても、鏡の表面しか見ていない自分に気づく。好きなことで忙しくしている僕を、曲がり角で僕が笑ってる
それは、ずっとずっと追ってくる。

自由とは

もっともっと、「表現」 をしたい。
もっと奥のほうへ、その先の向こうの景色を見てみたい。
誰も見たことのない景色。
一秒一秒に名づけられた数字に糸を通して、楽器にして鳴らしたい。
自分の環境を模型にして、様々な角度から考察してみたい。
もっと楽になって、骨から描いていきたい。
どんな形でも、どんな色でも、惹かれるものや惹かれる人を愛したい。
例え結ばれなくても、認められなくても、愛し続けたい。
もっともっと、絵を描いていたい。
誰かに足を引っ張られても、頭を殴られても、
私は私でいたい。
ありのままの、そのままの、私で。
鏡の中の自分に手を伸ばしてみる

誰かのせいにすんな
言い訳すんな
嘘つくな

「お前は自由だ」
とてつもなく、自由だ。

自由とは

鏡の中の自分と、見ている自分が、粘土みたいにひとつになる。
くしゃくしゃに丸まって、誰も見てない、私が生まれる。
夜明けに抱えた膝から、虹が出る。

止まった蝶が、かさぶたを治す
蝶は肩に止まり、
少し笑って
キャンバスの中へ

2013/10/25